映画「聲の形」、山田尚子監督に訊く

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『手塚治虫文化賞新生賞』『このマンガがすごい!2015』オトコ編第1位など、数々の賞に輝いた大今良時のベストセラーコミックをアニメ映画化した『聲の形(こえのかたち)』が現在公開中だ。制作は映画『けいおん!』や『たまこラブストーリー』などを手掛けてきた「京都アニメーション」。すでに興行収入は10億円突破。京都での舞台挨拶直後に、山田尚子監督に話を訊いた。

取材・文/春岡勇二

「嘘なくやらなくてはという覚悟で」(山田尚子監督)

──作品が公開され、満員の劇場で舞台挨拶をされた、今のお気持ちからお聞かせください。

『聲の形』は、公開前にどうしようとか、どのように受けとめられるかドキドキするとかは、実はあまりなかったです。というのも、この仕事をいただいたときから、たとえどのような評価を受けることになっても、『聲の形』の持っている魅力を映画にするんだという覚悟をして挑んだので。やりきったと言うと少し語弊があるかもしれませんが、私たちができる『聲の形』はこれしかないという作品には仕上がっていると思います。あとはもう観てくださるみなさんのものだという気持ちが強いですね。

──なるほど。それほどの覚悟で映画化された『聲の形』ですが、まずは原作との出合いから教えてください。

最初は、大今先生の原作がうちの会社(京都アニメーション)で映画化するということだけが決まっていて、私はその段階では原作を読んでいなかったんですが、スタッフには原作のファンも多くて、内容を聞くにつけ「(監督を)やりたいなあ」とずっと思っていました。

──原作を読む前にどういった内容を聞かれて、監督をしたいなと?

この作品はきっと言葉だけじゃないコミュニケーションを描く作品なのだろうと思ったんですね。もしそうなら、映像の動き、空気、色、音など、たくさんの表現方法を使って心や思いを伝えるアニメーションという媒体、それに特化した要素をもった魅力的な題材感じまして、ぜひお話しいただけないだろうか・・・と思っていたんです。

──監督に決まり、実際に原作を読まれてみていかがでした? 難しいとは思われませんでしたか?

決して難しいことでは無いなと、当初より感じていました。このお話は、人の心に肉迫していますが、いたずらに過激な描写をしているのではなくて、「愛」をもって描かれています。その、原作に込められている「愛」に寄り添うことは難しいことではないと思いました。つらいことも描かれているけれども、それを補ってあまりある愛も描かれていて、そのバランスは絶妙なものでした。だから、この作品にふさわしいアニメーションとしての表現を模索したいと強く思い取り組みました。

──確かに、つらいことも、それを補う愛もくっきりと、また深く描かれているなという印象は受けました。

原作者の大今先生ともたくさんお話させてもらったのですが、そのとき、この作品は本当に先生が気持ちを剥き出しにして作られたものなんだなと思ったし、その思いの深さにきちんと答えたいと思いました。だからこそ、このタイトルにとって恥ずかしいものは作れない、自分としても嘘なくやらなくてはという覚悟で臨みました。

© 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
© 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会画像一覧

──脚本が、監督のこれまでの作品『映画 けいおん!』(2011年)、『たまこラブストーリー』(2014年)と同じく吉田玲子さんですが、ずっと吉田さんと組まれている要因はなんなのでしょう?。

吉田さんの脚本には繊細な部分と客観的な部分の双方があり、情感も豊かなんだけどそれが重くない。とても居心地の良い脚本を書かれる方だと感じています。そのバランスが自分にとってとても刺激的で、いつも作品に向かう気持ちの鮮度を保ってくださるんです。

──今回の『聲の形』で、なにか特別に話し合われたことはありましたか?

いえ、特別にはなかったです。作品に向かうスタートの熱量はどの作品であっても変わらないと思います。今回は青春群像劇であり、家族の物語であり、そのなかに聴覚障がいを持つ少女が当たり前に居ただけという描き方にしようと、そこはお互いの思いとしてまったくブレなかったですね。

© 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会
© 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会画像一覧

──わかります。当たり前に居たという描き方の表れとして、障がいを持つ少女・西宮硝子の発声もリアルになされていて感心しました。アニメでも実写映画でもどうにでも表現できるじゃないですか、少女の心の声として明瞭に話させるみたいな。でも、この映画にはそういった描写は一切ない。作り手として肚(はら)をくくってるなと思いました。

大今先生もこの物語は主人公の少年の視点で描いたものであって、硝子の一人称ではないということをおっしゃていたので、そこは忠実にやろうとしました。また、先ほども言ったように、この作品は言葉だけでなにかを伝えるものではないという考えがまずあったので、「話す」という方法以外にもたくさんの伝え方がある、ということを大切に描きたいと思いました。

──そういえば、言葉を使わない表現の一例ですが、物語の後半で聴覚検査に硝子と祖母が出かけ、診察室での硝子の表情と祖母の表情、次のシーンで自分の部屋に戻った少女の動きだけで診察の結果を示してみせる、あそこはうまいですね。

ありがとうございます。観ている方々の想像力や感性を信じて組み立てていくことが大切だと思っています。映画と、観てくださる方との信頼関係が築ける作品でありたいので。ただ、情報は整理しますが、不足のないものであることはとても気を付けています。

──映画的な省略として、とてもいいと思います。最近の映画は観客の力を信じていなくて説明過多なものも多いので。一方で、主人公の石田将也が終盤、周囲の人間たちの声を聴こうとしたら起こる変化、あれはまた逆にわかりやすくていいですね(笑)。

今回はさまざまな「音の形」を捉えたいと思っていたので、あそこは聴こえなかった音が甦ってくる感覚、それは寝ていた者が起きる、覚醒する感覚と似ているのでは、ということからの発想です。効果の方をはじめ、音楽・音響チームの方々がこれ以上ないサウンドメイキングをしてくださいました。

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